「ボウイとバロウズ」

https://twitter.com/agoviciousdraws/status/1068611286051635201?s=21

珍しくハッキリとした元ネタがある特別な作品。

その「元ネタ」というのはこちら↓の対談。

https://www.rollingstone.com/music/music-news/beat-godfather-meets-glitter-mainman-william-burroughs-interviews-david-bowie-92508/amp/

描かれている人物の左は言わずと知れたロックスター、デビッド・ボウイ。右はウィリアム・S・バロウズ、ビート・ジェネレーションを代表する作家、というのが一番通りの良い紹介だろうか。

1974年のインタビュー記事がこんな簡単に読めるなんて、インターネットって素晴らしいなあ、でも当時の時代背景とか二人がどういう状況だったかとか分かんないとなんでこういう話してんのか理解すんの難しいよなあ、などと思っていたら、背景を説明する記事もちゃんと見つかります。ほんと凄いですね、情報化社会。

https://amp.theguardian.com/music/2013/mar/09/david-bowie-william-burroughs

この作品は元ネタにかなり忠実なのが特徴。記事のために撮影されたツーショットのモノクロプリントにボウイが色を塗った一枚があり、ほぼそれに従って彩色されている。ボウイがアイパッチをしているのはオリジナルだが、Rebel Rebelの頃の衣装を先取りしたとかではなく、帽子のつばの影が右目に掛かっているのを作者が単に勘違いしただけ、なんじゃないかな、たぶん。

しかしやはり元ネタの写真をなぞるだけでは満足できなかったのか、手前に2匹の動物が描き足されている。

2匹ともあごヴィシャス世界にちょくちょく登場するオリジナルキャラクター。左が猫のDavid Meowie、右が犬のDiamond Dog。2匹の顔には、ボウイのアルバム「アラジン・セイン」のジャケ写のボウイと同じ、ピエール・ラロッシュによるかの有名なメイク"lightning flash"が施されている。

アラジン・セイン」は1973年4月にリリースされており、この絵の元ネタとなったインタビューは同じ年の11月に行われている。また、翌1974年の5月には次のアルバム「Diamond Dogs」がリリースされている。作者がこの時系列を知っていてこの2匹を描いたのかは今となっては分からない。 

分からないと言えば、ボウイファンだった作者がバロウズの方にどのくらい関心があったのかも不明。バロウズ作品の翻訳をいくつも手掛けている山形浩生氏によるバロウズ研究書の決定版「たかがバロウズ本。」は母親の本棚にあったので(しかもサイン本)、うっかり手にとってパラパラ読み、興味を持っていた可能性はある。あごヴィシャス世界にロックスター、あるいは作者本人以外の人間が登場するのは稀で、その点でもこの作品は興味深い。

 

リクエストから「ブライアンジョーンズとミックテイラーとロニーウッドがセッションしていた頃」

https://twitter.com/agoviciousdraws/status/1086961910501658624?s=21

珍しくわりと普通の、ロックスターが演奏しているだけのファンアート。ミュージシャンをつかまえて「演奏しているだけ」というのもおかしいが、あごヴィシャス世界においてはマイナーなので仕方がない。

出演者は題名の通り、左からブライアンジョーンズ、ミックテイラー、ロニーウッドの三人。言わずと知れたザ・ローリング・ストーンズのメンバー。ストーンズファンならご存知の通り、ブライアンジョーンズがまともに演奏できなくなってミックテイラーが加入し、ミックテイラーが脱退してロンが加入した訳で、この3人がニコニコとセッションしているのはファンにとっては夢の共演かもしれない。(ロンとミックテイラーは後年実際に共演しているが。)

ロンが弾いているのはレスポールスペシャルっぽいが、何故かピックガードが無い。単なる描き忘れか。ミックテイラーは美青年時代に愛用していた赤いSG。

そして問題のブライアンジョーンズ。3つの楽器の同時演奏を敢行している。右手前の厚揚げ豆腐みたいなのがメロトロン。膝の上で水平に抱えているのがアパラチアンダルシマー。そして口に咥えているのがリコーダー。いくらブライアンジョーンズでもこの3つを同時には使わんだろ、というツッコミが待たれている状況。

スレッドで作家本人が解説している通り、どれが見たいか3つの楽器を候補にアンケートを取った結果、最多の回答が「ぜんぶ見たい」だったからこうなったとのことだが、「3つ同時に」とは多分回答した誰も思っていなかっただろう。(そのアンケート→ https://twitter.com/agoviciousdraws/status/1086518753330778112?s=20

が、おそらくアンケートを設定した時点でこの「3つ同時に演奏する図」が頭に浮かんでいたと思われる。そういうところがこの作家にはある。多分。

リクエストから「養蜂中のフリー」

https://twitter.com/agoviciousdraws/status/1101806868970655745?s=21

多数ある「ツッコまれ待ち」の作品の内の一つ。

無粋だがツッコんでおくと「なんぼフリーでも蜜蜂を世話する時に裸にはならんやろ」、、ですね。

蜂たちは一匹一匹の表情がとても豊かで、飼い主の周りを戯れて飛び回る動きが容易に目に浮かび、楽しい。全てが丸くなるあごヴィシャス世界なので、蜜蜂の針の先もきっとまん丸なのだろう。

登場人物は言わずと知れたレッド・ホット・チリ・ペッパーズのベーシストであるフリー。"flea honeybee"などといったキーワードで検索を掛けると蜜蜂を愛でるフリーの写真がいくつも見つかる。もちろん防護服をきっちり着込んでいる。

 

リクエストから「カートとコートニーとフランシス」

https://twitter.com/agoviciousdraws/status/1091047807056633856?s=21

崇高。

これだけ少ない線と色で、これだけ気持ちが込められた絵というのは世の中にそんなにたくさんは存在しないと思う、と言ったら言い過ぎか。

作家が私の一人娘で、その作家が若くして亡くなったからそう感じるというのは否めない。いや、それ抜きに客観的に見てもすごく良い絵だな、と思いたいところなのだが、客観的に見ることができているかなんて甚だ怪しいし、土台無理な話だとも思う。

少なくとも、この三人家族の父親が最悪なことに娘が2歳にもならないうちに自殺してしまうことについては作家は知っていた。母親がその後もいろいろ無茶をやり養育権を剥奪されるに至ったりすることも知っていたかもしれない。それでも娘は親のタレントを受け継いで、もちろんそれだけでなくおそらく人一倍努力もして、モデル、画家として成功していることまでは知っていただろうか。

登場人物は左がカート・コバーン(コベインって言わないとファンに叩かれるんでしたっけ?)、右がコートニー・ラブで、抱かれている赤ちゃんがフランシス・ビーン・コバーン

コートニー・ラブとフランシスはMTV  Music  Video  Awardsの時の格好のようだが、カートは同じその時の格好ではなくダニエル・ジョンストンの例のTシャツを着ている。

あごヴィシャス世界ではやたら簡単に死ぬことの多いカートが、コートニーの背中に左手をしっかりと添え、両足で地面をがっしり踏み締め、いつもよりどっしりと構えている。

誰かのリクエストに応えて手癖でサラサラ描いただけなのかもしれない。しかしとても幸せそうな三人家族が描かれているのは確かだ。

無題(DEVOと私の先生)

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数少ない未発表作品の一つ。

ほとんど馴染めなかった大学の中でほとんどただ一人仲良くなることができた先生にプレゼントするために描いたらしい。おそらく先生がDEVOのファンなのだろう。

左から3番目がその先生。お馴染みのエナジードームを被り黄色のツナギを着たメンバーとお揃いの姿で肩を組む。そりゃあ満面の笑みになりますよね。

メンバーは左から、ジェリー、マーク、(先生)、ジョシュ、ボブ1号、ボブ2号、、、かなあ。作家本人に聞いた訳ではないのでマーク以外まるで自信ありません。楽器携えてないし。どなたか正解を教えてください。

バンドロゴがチョー雑なところにこの作家の特徴が現れている。普通4色だろうが、おい。

珍らしく作家のサインが入っているのもポイント。

“[かなりびっくりするバンド]リアムがタンバリンを叩きフレディがキーボードをやりボランがボンゴを叩きシドがベースをやりボウイがボーカルをやりノエルがリードギターを弾きカートがリズムギターを弾きモリッシーが作詞をしているバンド”

https://twitter.com/agoviciousdraws/status/1067408699453390848?s=21

好きなロックスターを集めてバンドを組ませるという比較的ストレートなファンアート。

出演はタイトルに細々書かれているので解説するまでもないが、左からシド・ヴィシャスカート・コバーンノエル・ギャラガーリアム・ギャラガーデビッド・ボウイマーク・ボラン、フレディー・マーキュリー、右上の丸枠内がモリッシー

あごヴィシャス世界では出火吐暴威マント姿であることが多いボウイが珍しくTokyo Pop Vinyl Body Suit姿なのがポイント。モリッシーをステージに立たせないという贅沢も拘りかもしれない。

この作品は2枚組になっており、1枚目では順調に滑り出したバンドが(シドがベースを弾いてなさそうなのはいつものことなので諦めるとして)、2枚目では完全に崩壊している。カート・コバーンはなぜか死んでおり、死んだカートにシドが追い討ちを掛け、ノエルをリアムが殴り、ボウイとボランとフレディーがマイクを奪い合っている。左4人はあごヴィシャス世界では定番のムーブだが、右3人が揉めるのは珍しい。ボランとフレディーの眉間にシワが寄っているのはコブシを効かせる歌唱の瞬間なだけで、単に仲良く合唱しているのかもしれない。